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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)577号 決定

抗告人 赤塚弘

相手方 日本信販株式会社

右代表者代表取締役 木島利夫

主文

原決定を取り消す。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原決定に対し、異議の申立てをする。」というものであり、その理由は、「原決定によれば、抗告人(上告人。以下「抗告人」という。)は、抗告人に対する上告受理通知書送達の日である昭和五九年七月一九日から五〇日内に原裁判所に上告理由書を提出しない、とされているが、原裁判所は、抗告人が右期間内に提出した上告状を上告理由書として受理した旨抗告人に通知しており、かつ、抗告人は、原裁判所から命ぜられた所定の一四日の期間内に上告理由書五通を原裁判所に提出したので、原決定は不当である。」というにある。

二  当裁判所の判断

本件記録によれば、抗告人は、頭書当事者間の横浜地方裁判所昭和五九年(レ)第三号立替金請求控訴事件について原裁判所が昭和五九年六月二七日言渡した判決に対し、同年七月九日原裁判所に上告の申立てをし(上告の理由としては事実誤認があるとのみ記載)、原裁判所の補正命令に従い、所定の期間内に上告申立補正書(上告の理由としては、おって上告理由書を提出する旨の記載のみ。)を原裁判所に提出したこと、そこで、原裁判所は、抗告人に対し上告受理通知書、注意書を送達し、同書面は同年七月一九日、抗告人に送達されたこと、その後、抗告人は、同年九月七日発送、翌八日原裁判所受付の「上告状」と題する書面(以下「上告状とある書面」という。)を原裁判所に郵送したところ、原裁判所は、同年九月二八日、「抗告人提出の九月八日受付の『上告状』とある書面は『上告理由書』と認める」旨付記したうえ、抗告人に対し、「上告状とある書面」記載の上告理由について法令違背の条項及び内容を掲記し、かつこれを記載した書面の謄本五通を本件決定送達の日より一四日内に提出するよう補正を命ずる決定をした(同年一〇月一日抗告人に送達済)ので、抗告人は、右所定の期間内に上告理由書を原裁判所に郵送した(同年一〇月一二日原裁判所受付)ことが明らかである。

右の事実経過によれば、抗告人の「上告状とある書面」は、上告理由書提出の法定期間である前顕上告受理通知書送達の日から五〇日(民事訴訟法(以下「法」という。)三九八条一項、民事訴訟規則五〇条)を経過した日の翌日である昭和五九年九月八日に原裁判所で受理されたのであるから、原裁判所は、その時点で抗告人の本件上告を法三九九条一項二号に則り決定をもって却下すべきであった。しかし、原裁判所はこれをせず、前叙の如く、同年九月二八日、抗告人の「上告状とある書面」を上告理由書と認める旨付記したうえ、抗告人に対し補正を命ずる決定をしたものであるから、原裁判所の同日付け右決定は、本件について上告理由書提出の法定期間を「上告状とある書面」が受理された同年九月八日以降右決定送達の日から一四日目の日まで伸長する旨の決定(法一五八条一項)を含むものと解さざるをえない(右法定期間を伸長する決定は、法一五八条一項の法意ならびに、不変期間について追完を許す法一五九条に比類して、期間満了後においてもすることができると解すべきである。)。

そうとすれば、上告理由書の提出期間を右のとおり伸長する旨の決定をし、抗告人がその伸長期間内に上告理由書を提出したにもかかわらず、抗告人が上告受理通知書送達の日(昭和五九年七月一九日)から五〇日内(同年九月七日まで)に上告理由書を提出しないことが明白であるから、法三九九条一項二号にしたがい本件上告を却下すべきものとした原決定には、法三九九条一項二号の適用を誤った違法があるといわざるをえず、この点において原決定は取消しを免れない。

よって、原決定を取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 後藤静思 裁判官 尾方滋 橋本和夫)

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